思いつき超短編小説「テイクなんとか」

帰宅途中にカフェの前を通りかかった男は、
美味そうなコーヒーの香りに誘われて、フラフラと店内に入った。
しばしメニューを眺めて、小さくうなずくと、
男は、完璧な営業スマイルを浮かべた女性の店員に向かって口を開いた。


「カフェモカのミドルサイズを、テイク・・・あれ?
 なんだっけ? テイク・・・なんだっけ?」



彼はテイクアウトと言いたかったのだが、
ド忘れしてしまい、どうしてもその言葉が思い浮かばない。
素直に「持ち帰りで」と言えばいいようなものだが、ここは小洒落たカフェ。
日本語で持ち帰りなどと言った日には、店員に失笑されるのではないか──
という思いから、口に出すことができない。


「えーと、テイク・・テイク・・・なんだっけ・・・」


気付くと彼の後ろには、新たな客が3人ほど並んでいた。
すぐ後ろにいるサラリーマン風の男は、イライラしたように靴で軽く床を踏みならしている。
それを見た彼はさらに焦り、額には大粒の汗が浮かび始めた。
店員は相変わらず笑顔だが、その表情は明らかに引きつっている。
彼はヤケクソになって叫んだ。


「テイクオフ!」


次の瞬間、目の前の女性店員が轟音を発して飛び立ち、店の天井を突き破って遙か上空へと消えていった。
ポッカリと空いた天井の穴を見上げながら、彼はつぶやいた。


「ああそうか、テイクオフは・・持ち帰りじゃなくて『離陸』だったっけ・・・」


男は肩を落として店を出ると、自動販売機で缶コーヒーを買い、トボトボと家路についた。
はたして、彼がカフェでテイクアウトできる日は来るのだろうか──。


【つづく(かも)】



<今日の結論>
PS2版「アメリカ横断ウルトラクイズ(中古1280円で購入)」をクリアした。
ニューヨークの決勝より、ドームの予選のほうが256倍難しかったのはヒミツだ。
効果音とか司会の音声(もちろんトメさん)も本物そっくりで、
ウルトラクイズ世代なら間違いなく楽しめると思う(安いし)。
もちろん、あの『泥んこクイズ』もリアルに再現!