ローカル線でローキック

nobi-inu2004-06-06

春先までは「会社ヤバいんじゃないの?」というくらい、とにかくヒマで
昼過ぎにのっそり出社して、定時になるやサッサと帰る──という給料泥棒丸出しな生活をしていたのだが
そのツケが回ってきたのか、このところバカみたいに忙しい。
月曜から土曜まで、朝10時出社→終電で帰宅という日々が続いている。


帰宅して風呂に入るともう1時。
更新しようとPCに向かうも、布団の誘惑に負けて気付けば夢の中……
ということを繰り返していたせいで、先月はたったの2回しか更新できなかった。
おばあちゃんの交尾画像に興味があるみなさんには本当に申し訳ないと思う。


と言い訳をしつつ、何事もなかったかのように前回の続きを。



<5月18日の日記より続き>


東京を出発してから約3時間後の定刻8時26分。
僕を乗せた323Mは終点、静岡駅のホームへと静かに滑り込んだ。
快適なクロスシートともここでお別れ。
3時間ぶりの外の空気をじっくり味わう間もなく、ホームの反対側に止まっている電車に乗り込む。
本日の第二走者、8時28分発の浜松行き普通列車5741Mだ。


車両は、残念なことにロングシートタイプの211系だった。
車窓の景色を楽しむのはあきらめてカバンから文庫本を取り出す。
池澤夏樹著「インパラは転ばない」。
氏ならではの観察眼と軽妙な文体が楽しめる、お気に入りのエッセイだ。
内容もさることながら、何と言ってもタイトルがいい。
浜松までの約1時間、心地よい揺れに身を任せながら活字の世界を堪能する。


9時39分、終点の浜松に到着。
約10分の待ち合わせで、浜松発大垣行きの快速5117Fに乗り継ぐ。
車両は、この地域の顔とも言える「新快速」用の221系
クロスシートの座席はとても快適で、最高時速も130km/hと特急並みにも関わらず、普通運賃だけで乗れる嬉しい列車だ。
青春18きっぷで四国へ行ったときも、この車両にはお世話になった。
あまりの快適さについ長居したくなってしまうが、今日は残念ながら30分足らずでお別れ。
10時24分、豊橋で下車する。
ここで、今回の旅の目的のひとつである飯田線に乗り換えるのだ。


飯田線は、愛知県の豊橋と長野県の辰野を結んでいる。
約200キロの路線内には100近い駅(その大部分が無人駅)があり、豊橋〜辰野間の所要時間は約6時間。
そうした特徴から「偉大なるローカル線」の異名も持つ、旅情タップリの路線である。
以前から一度乗ってみたいと思っていたのだが、思わぬ形でこうして実現することになった。
今回の目的地は、この飯田線に2時間ほど揺られた先にあるのだ。
豊橋発岡谷行き519Mは、飯田線専用123系の2両編成。
室内は、4人掛けのボックス席とロングシートが混在する、いわゆる近郊形だ。
東海道線との乗り継ぎ時間が約20分ほどあったおかげで、
首尾良く「進行方向向き窓際」のベストポジションを確保することができた。


10時43分、豊橋を発車。
豊橋を出てからしばらくは近郊地域らしい風景が続くが、
豊川を過ぎて複線から単線になるあたりから、一気に車窓のローカル色が強くなる。
2両編成ということもあってか、車内は立ち客もいるほどの混雑ぶりだ。
ゴールデンウィーク中ながら乗客のほとんどは地元の人といった感じで、観光客らしい姿は少ない。
僕が座っているボックス席には若いお母さんと2人の子供連れが座っているが、
会話の内容から察するに、明らかに地元住民のようだ。


ところで、正面の席に座っているちょっと生意気そうなほうの男の子(幼稚園くらい)が、
先ほどから僕の膝に合計18発ほどローキックを叩き込んでいるのだが、どうしたものだろうか。
要は、彼がブラブラさせている足がちょうど僕の膝に当たるということなんだけど。
しなやかでシャープないい蹴りだ。
もちろんお母さんも黙って見ているわけではなく、そのたびに僕に謝りつつ


「コラッ! やめなさい!」


などと口で息子を注意していたのだが、そのうち業を煮やしたのか暴力に訴え始めた。
すなわち、言っても聞かない息子の頭を叩き始めたのだ。


「ペチッ!(ローキックが僕の膝にヒット) コラッ! バシッ!(お母さんの平手打ちが息子の頭にヒット)」


のどかなローカル線の車内に、乾いた打撃音が響く。
さらに12発ほどキックをもらい、男の子がそれと同数だけお母さんに頭を叩かれた頃、
ようやくその親子連れが降り、僕の身に平和が訪れた。
目的地を前に、危うく無念のK.O.負けを喫するところだった。
あの子は将来、立派なK-1ファイターになることだろう。


そうこうしているうちにも、電車はどんどん山あいへと突き進んでいく。
線路に寄り添うようにして流れる小さな川が、キラキラと太陽の光を反射している。
停車する駅はほとんどが無人駅で、短いホームが1本あるのみで駅舎がないような小さな駅ばかりだ。
そしてまたあるときには、視界のすべてが緑一色に染まってしまう。
これはちょっと感動的だった。
線路脇に木々が並んでいる、とかいうレベルではない。
大きく開けた視界の中に存在するのが木や草だけ──という瞬間が、この飯田線に乗っていると頻繁に訪れるのだ。
見渡す限り、道も車も建物も、もちろん自販機ひとつ見あたらない。
視界の中に、いっさいの人工物が存在しない光景。
そんな景色を眺められただけでも、こうして出かけてきた甲斐があったと思う。


飽くことなく車窓を眺め続けること約2時間。
車窓の風景の秘境っぽさがさらに高まっていく中、僕が降りる駅まであと少しと迫っていた。
トンネルをあとひとつ抜ければ、そこが目的地だ。


自宅を出発してから、すでに8時間が経過していた。


<次回へ続く>



今日の結論:いよいよ次回完結!(予定)。しかし、いつ更新できるかは未定……。