あり得ない男

「あり得ない」という言葉が好きではない。
何でもかんでも「あり得ない」の一言で片づけてしまう風潮が好きではない、というべきか。
しかし、世の中には「あり得ない」男というのが確かに存在する。
今日はそんな男の話をしたい。
会社の後輩、K君の話だ。


仕事面ではなかなか優秀で根性もある彼だが、たまにとんでもないことをやらかして
周囲を恐怖(もしくは笑い)のずんどこに叩き込んでくれる。
本人には気の毒なのだが、僕には彼がマヌケの神に魅入られているとしか思えない。
それくらい、彼の身には「普通そうならないだろ!」という出来事が起きるのだ。


1つ目は、K君が足を骨折したときの話だ(これは実際に見たわけではなく彼から聞いた)。
その事件は居酒屋で起きた。
楽しく飲んでいた彼だったが、ひょんなことからある男と口論になり
酒が入っていたこともあって一気に頭に血が上ってしまった。
相手も同様だったらしく、周囲が止めるのも聞かずに店内でケンカが始まってしまう。
K君は雄叫びを上げて猛然と相手に接近すると、いきなり跳び蹴りを繰り出した。
当たればダメージはデカいが、外した場合の隙もハンパではない大技だ。
予想外の大技炸裂に、周囲からどよめきが起こる。
次の瞬間。
渾身の気合いを込めた跳び蹴りはアッサリと避けられてしまった。
そして、悪いことにそこは2階で、相手の背後には下り階段があった。
彼は、跳び蹴りの形のまま勢いよく1階まで落ちた。
全治6ヶ月、骨が皮膚を突き破るほどの大ケガである。


・・・あり得ないだろ、それ。
まずいきなり跳び蹴りってのがあり得ないし、相手に避けられた時のことを全然考えてないってのもあり得ない。
本人には悪いが、ぜひその場面をライブで見たかったと思う。
そんなの、ジャッキー・チェンの映画くらいでしか見られないもんなあ普通。


2つ目は、今年の仕事始めの日の話だ。
出社時刻を過ぎてもK君が出社してこない。
正月ボケで寝坊かなと思っていたところ、ちょうどそこに電話が。
電話の相手は予想通りK君だったのだが、その内容がとんでもなかった。


布団の中にカッターの刃が紛れ込んでて、寝てる間にかなりひどく足を切ったので
 申し訳ないんですがちょっと今日は行けそうにありません・・・(要約)」


いや、あり得ないからそれ。
どういうプレイ(謎)をすればカッターの刃が布団に入るんだ。
彼の名誉のために付け加えておくと、別にサボる言い訳としてそう言っているわけではない。
(ってまあ、それだったら「風邪引いた」とか言うよな普通)。
その後、出社してきてからも2週間くらいは足を引きずって歩きづらそうにしていた。
新年早々、つくづく運のない男である。


そして最後はつい先週の話だ。
僕はちょうど打ち合わせで外出していてその場面を見ることはできなかったのだが、
会社で、彼のカバンがいきなり自然発火するという事件があった。


あり得ねえっつううううううううううううううの!!
現場に居合わせた同僚によると、なんか臭いなと思ったらK君のカバンから煙が上がっていたのだという。
そのカバンは燃えやすい素材で出来ており、熱を持ったACアダプターと接触していたことにより
発火してしまったのではないか、ということだった。
幸い、すぐに気付いたため大事には至らなかったが、危うく会社が燃えてなくなるところだった。
K君の魔力(なのか?)、恐るべしである。


みなさんの周りに、そういう人はいないだろうか。



今日の結論:これからは「あり得る」という言葉が流行ると思う(嘘)。